えー、とりあえずネタ込みで。原文を比較してみます。
なお、その前にここのストーリーはこんな感じです。

「晋の王衍が、漢の石勒に襲撃されて軍は壊滅。王衍は捕えられて石勒の前に引き出された。
 
 王衍はおろおろしながら「わしの仕官は本意ではなく、今回の抗戦も実のところわしの預かり知った事ではない」などと述べ立てて命乞いし、石勒に皇帝になるようにすすめた。
  
 石勒は怒りを覚えて「貴方は太尉の要職にあり、天下の名流であろうに、今さら国家の大事に預かり知らん身だと言えた義理か。晋の天下をめちゃくちゃにしたのは貴方の責任だ」と怒鳴りつけた。配下の孔萇が「王衍は晋の重臣。助命しても我がほうのためになるとは思いません」と石勒に処断を進め、石勒はそれを承諾して夜中に王衍を戸外に連れ出し、壁を押し倒してその下敷きにして圧殺した。」
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8E%8B%E8%A1%8D_%28%E8%A5%BF%E6%99%8B%29を改変)

1,晋書
晋書卷四十三 列傳第十三
山濤(子簡 簡子遐)王戎(從弟衍 衍弟澄)郭舒 樂廣
<原文>
辭曰:「吾少無宦情,隨牒推移,遂至於此。今日之事,安可以非才處之。」俄而舉軍為石勒所破,勒呼王公,與之相見,問衍以晉故。衍為陳禍敗之由,雲計不在己。勒甚悅之,與語移日。衍自說少不豫事,欲求自免,因勸勒稱尊號。勒怒曰:「君名蓋四海,身居重任,少壯登朝,至於白首,何得言不豫世事邪!破壞天下,正是君罪。」使左右扶出。謂其党孔萇曰:「吾行天下多矣,未嘗見如此人,當可活不?」萇曰:「彼晉之三公,必不為我盡力,又何足貴乎!」勒曰:「要不可加以鋒刃也。」使人夜排牆填殺之。衍將死,顧而言曰:「嗚呼!吾曹雖不如古人,向若不祖尚浮虛,戮力以匡天下,猶可不至今日。」時年五十六。

なんつーか、長いですね。

ストーリーは王衍が言い訳→石勒喜ぶ→王衍やらかし→石勒激おこ→石勒と家臣の問答→王衍OUTと、笑ってはいけない晋王朝24時っぽくなっております。

あと、なんか小説っぽい。突然殺されそうなときに:「嗚呼!吾曹雖不如古人,向若不祖尚浮虛,戮力以匡天下,猶可不至今日。」とか喋っちゃえるもんでしょうか?長台詞だよねえ。そこらへんが芸人魂なんでしょうか。(違う

2,資治通鑑
<原文>
夏,四月,石勒帥輕騎追太傅越之喪,及於苦縣寧平城,大敗晉兵,縱騎圍而射之,將士十餘萬人相踐如山,無一人得免者。執太尉衍、襄陽王范、任城王濟、武陵莊王澹、西河王喜、梁懷王禧、齊王超、吏部尚書劉望、廷尉諸葛銓、豫州刺史劉喬、太傅長史庚金全等,坐之幕下,問以晉故。衍具陳禍敗之由,雲計不在己;且自言少無宦情,不豫世事;因勸勒稱尊號,冀以自免。勒曰:「君少壯登朝,名蓋四海,身居重任,何得言無宦情邪!破壞天下,非君而誰!」命左右扶出。眾人畏死,多自陳述。獨襄陽王范神色儼然,顧呵之曰:「今日之事,何復紛紜!」勒謂孔萇曰:「吾行天下多矣,未嘗見此輩人,當可存乎?」萇曰:「彼皆晉之王公,終不為吾用。」勒曰:「雖然,要不可加以鋒刃。」夜,使人排牆殺之。

文章量は以外なことに晋書と大差ないのですが、これは捉えた晋軍の武将を羅列したからですね。

ストーリーはだいぶ違ってまして、王衍が言い訳→石勒激おこ→石勒と家臣の問答→王衍OUTとなっています。王衍の最後の台詞はなし。司馬光が見ていた野史が晋書の元ネタではないか?という説が昔からありますが、元々こういう話なのを晋書が「笑ってはいけない晋王朝24時」にしてしまったんでしょうか?

3,十八史略
<原文>
執太尉王衍等、衍自言「少無宦情,不豫世事」勒曰:「吾行天下多矣,未嘗見此輩人,當可存乎?」或曰:「彼皆晉之王公,終不為吾用。」勒曰:「雖然,要不可加以鋒刃。」夜,使人排牆殺之。

これは又短い。しかしこうしてみるとわかりますが、この部分の十八史略の元ネタは完全に通鑑ですね。晋書はネタ臭いし、略すのがやりづらい文章なので、通鑑にしたのは正解でしょう。

王衍が言い訳→石勒と家臣の問答→王衍OUTと、激おこ部分がないので「なんやこいつー、キモいわー、完全にアウトやー」(松本人志の声で)という感じになっております。

編集能力高いですね。二三行でちゃんと分かるというのはエライ。山本夏彦さんが完本文語文で褒めるだけのことは有ります。

ただし割りを食ったのが孔萇後三国演義で孔融の孫という設定にしてもらい、怪物退治までしたことにしてもらったのに役名なしのエキストラ扱いです。孔萇もね、故郷のオカンとかに「おれ、年末のテレビ出るねん。『笑ってはいけない晋王朝24時』やで!石勒役の松本人志さんの付き人や!絶対見てな!」とかって言ってたと思うんですね。列伝も立ってないモブ武将としては。孔融が曹操にアボーンされてからこの方、漸く日の目を見る時が来たと思ったら、これはひどい。<世界のヘイポー曾先之プロデューサーの鶴の一声で出番カット。あんまりです。オカンも悲しんでいるでしょう。孔萇、ガンバレ。きっとまじめに生きていればいいこともある!

新十八史略
日本語の打ち込みがだるいので略しますが、晋書+通鑑+やおい風の妄想という独自展開になっております。「しおしおと獄舎に引き立てられていく五十六歳ながらも西晋随一の白皙端麗な容貌が残る王衍」を、「合戦に生きてきた蛮将石勒はさすがに斬るのはやめたかったので」とか、そういうやおい系の話は原書には全然ないんですけど、この本はフツーに出してきますね。そういうボーイズラブとかぶっこまないでもらえますかねえ。孔萇はあいかわらず「ある人」呼ばわり。

ウィキペディアは新十八史略を引用するのはやめたほうがいいですね。史書というよりこれ小説。しかもやおい。

小説十八史略
話しそのものをカットして、晋書が元ネタの劉曜と羊献容のラブロマンスにしちゃいました。それはないと思うなあー。羊献容が可愛いとか可憐とか絶世の美女とか、陳舜臣さんがあちこちで書いてますが、萌えるのは勝手ですが、晋書には一言も羊献容の容貌については書いてないんですよね。