宮本昌孝氏の小説「ふたり道三」全三巻を読み終えた。「六角承禎条書写」を元にした斎藤道三二人説を取った小説で、歴史学と民俗学の知識が縦横無尽に飛び交う、波瀾万丈の伝奇ロマンでなかなか面白かったが、こうなると史料と付き合わせたくなるのが悪い癖である…

一応、ネタバレなので、小説を読んでいない方はスルーでお願いします。

小説のあらすじは( http://loungecafe2004.com/novels/2012/02/20-113645.php)参照。

・ 刀工・櫂扇(ひおうぎ)派
かなりもっともらしい設定があり、後鳥羽上皇隠岐遠流の時のお側使えの工人「こうら」の子孫で、御番鍛冶の青江貞次・恒次・次家三兄弟と一緒に作刀した備中青江紹次を祖とするというが、
 これは作者の創作と思われる。後鳥羽上皇の御番鍛冶の末裔だとしているが、御番鍛冶にも備中青江派にも、そんな名前のものは居ないようだ。よく出来た設定で、「青江貞次・恒次・次家」は国宝刀剣を打った大物刀工。嘉吉の乱とか、後南朝とか実在の事件にひもづけるのが実に上手い。

なお、櫂扇というネーミングは「後鳥羽上皇が大力でいらせられ、櫂(かい)をブンブン扇のように振り回された」という故事からだと思われる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%95%AA%E9%8D%9B%E5%86%B6(御番鍛冶一覧)

・赤松政則の娘
 小説ではおどろ丸(後の長井新左衛門尉)に襲われることになっており、長井新九郎(後の斎藤道三)の実母だとしているが、無論そんな史実はない。一応、斎藤妙純の母は赤松氏とされる(美濃明細記)なので、そこから思いついたのかと思う。なお、長井新九郎の実母は、多分、奈良屋の娘ではないかと思う。

・ 二代兼定(和泉守兼定)は下手くそな刀工
 ここは一番引っかかるところである。和泉守兼定って幾らなんでも下手な刀工でもないし、すぐ折れるような刀も作っていないし、 こんな小悪党で忍者にだまし討にされる人でもなかったと思うんですよねえ…

・ 長井新九郎(後の斎藤道三)は元・僧侶
 これは史料の誤読かフィクションと思われる。 「六角承禎条書写」では、「斎藤義龍の祖父(長井新左衛門尉)が元々法華宗の僧侶だった」としているので、長井新左衛門尉=法蓮房である。

・斎藤十郎光彬
 この人物はおそらく斎藤利三の父とされる斎藤利賢がモデルの創作人物。なお、斎藤義龍の実父扱いというのはなかなか考えた設定だが、お陰で斎藤利三が割りを食って出てこなくなってしまった。

・死んだはずの人間が生き返る展開
 これ、二回もあるんですよ。同じ小説の中で。どんなもんですかね。

・長井豊後守利隆
 斎藤妙純の弟の救いがたい小悪党として描かれているが、「江濃記」によるとどうも、長井新左衛門尉と同一人物のようである。

・ 長井破天丸(長井新左衛門尉の子)
 土岐元頼と一緒に殺されてしまうかわいそうな子供だが、これは実は常在寺南陽房の子供の頃の姿であるようだ。史料には「毘沙童子」として登場。 土岐元頼と一緒に居たことは史実だが、生き残っている。長井新左衛門尉(長井豊後守利隆)の弟。

・斎藤正義
 濃姫に暗殺されることになっているが、史実では土岐一族に暗殺されている。