前回の「"不運"と"踊"っちまったんだよ的な文体はいつ生じたのか?~『通俗続三国志』・魯迅・吉川英治の流れ
でちょっと触れた、『通俗二十一史』について書いておきたい。これは、江戸時代に書かれた中国の歴史書の翻訳シリーズである。二十一史というと正史の翻訳みたいだが、必ずしもそうではない。
実は『三国志演義』にあやかって出された演義小説及び、日本人の漢学者が演義をまねて書いた「通俗物」と言われる中国歴史小説のシリーズなのであった。

まず、国立国会図書館のデータベースからシリーズの概要を引用しよう。
(http://iss.ndl.go.jp/books/R100000039-I001676246-00)

1巻 通俗十二朝軍談(李下散人)  通俗列国志 前編-一名・武王軍談(地以立)
第2巻 通俗列国志 後編-一名・呉越軍談(地以立)
通俗漢楚軍談(夢梅軒章峯,称好軒徽庵)
第3巻 通俗西漢紀事(称好軒徽庵) 通俗東漢紀事(称好軒徽庵)
第4,5巻 通俗三国志(湖南文山)
第6巻 通俗続三国志(中村昂然) 通俗戦国策(毛利瑚珀)
第7巻 通俗続後三国志(尾田玄古)
第8巻 通俗南北朝軍談(長崎一鶚) 通俗隋煬帝外史(煙水散人)
第9巻 通俗唐太宗軍鑑(夢梅軒章峯) 通俗唐玄宗軍談(中村昂然)
第10巻 通俗五代軍談(毛利瑚珀) 通俗宋史軍談(尾陽舎松下氏)
第11巻 通俗両国志(入江若水) 通俗宋元軍談(源忠孚) 鴉片戦志-原名海外新話(嶺田楓江)
第12巻 通俗元明軍談(岡島玉成) 通俗明清軍談(著者未詳) 髪賊乱志(曽根俊虎)

このシリーズの中で飛び抜けて有名なのが湖南文山『通俗三国志』で、要するに李卓吾本の『三国志演義』の「超訳」である。高島俊男氏らが指摘するように、忠実な翻訳ではない。ただ、江戸時代にはものすごいベストセラーであった。これに次ぐ人気だったのが『通俗漢楚軍談』で、横山光輝氏の漫画『項羽と劉邦 若き獅子たち』がこれに影響を受けたことでも知られる。

なお、三国与太噺さん が既に触れているように、(夢梅軒章峯、称好軒徽庵、湖南文山は、全員同一人物である。(天龍寺義轍・天龍寺月堂の兄弟)『通俗二十一史』全12巻のうち、実に4巻は天龍寺義轍・天龍寺月堂の兄弟が書いているのだからある意味すごい。日本文学史に残る兄弟作家ではないだろうか。

しかし、こうしてみると三国志、続三国志、続後三国志と「三匹が斬る!」のように三国志が続くのも異様である。日本人にとって中国史=三国志だったのがよく分かる。

なお、 通俗宋元軍談は日本人の漢学者が正史を元にオリジナルで書いた演義とされる。マカロニ・ウエスタンみたいなものだと思うのだが、どうも『元史』に引きづられたせいか非常におとなしくて中国人ぽいチンギスハンが登場するんだよなあ。